2012年のオバマ大統領で
2012年のオバマ大統領の一般教書演説で取り上げられた、米国立がん研究所の小林久隆博士が開発した、光免疫療法(近赤外線免疫療法)についてご存知でしょうか?
要約しますと1分で「がん細胞」を破壊し、副作用もない「光免疫療法」。
現在のがん治療法である「外科手術」は、「放射線療法」や「化学療法」があり、身体への負担がとても大きく、副作用があります。これらの治療は、がん細胞以外にも正常な細胞や周囲の臓器も痛めてしまうからです。
そんな従来の治療法とは異なる、光免疫療法(Photoimmunotherapy)について調べてみようと思います。
光免疫療法(ひかりめんえきりょうほう、英:Photoimmunotherapy)
光免疫療法とは、がん細胞のみ結合する抗体薬を使用します。
抗体薬は点滴で投与し、この段階では無毒ですが、近赤外光のレーザーを当てると化学変化し、がん細胞のみをピンポイントに爆破するというものです。
がん細胞に接着する物質としてリポソームを、光感受性物質としてICG(インドシアニングリーン)を、レーザー光線として赤色と近赤外線の2色を使用します。この薬の効果ですが、点滴投与すると徐々にがんに集まっていき、1日程でがん細胞に薬がたくさんくっつきます。
レーザー光の照射により薬が反応し、薬が多く付着したがん細胞は破裂し、死滅します。また光免疫療法用の薬が付着しなかった正常細胞は、レーザー光を当ててもダメージを受けることがありません。
これらの効果測定と比較した場合、従来の抗がん剤治療とは違い、治療部位以外での副作用はほとんどなく、患者さんにやさしいがん治療法と捉えることができるのです。
点滴で投与する抗体薬は
抗体医薬/リポソーム:細胞膜に接着する性質を持った物質
光感受性物質(IR700/ICG):光が当たると熱や活性酸素を発生
この融合された薬剤を点滴で体内に入れ、状況によっては直接がん組織内に注入するのです。
腫瘍血管(正常組織の血管に比べ、血管内物質が組織内に浸透していきやすい)を介し、薬剤はがん組織に運ばれていきます。
がん細胞表面の細胞膜に十分に接着するまで1日(〜2日)待った後、外側から赤外線や赤色のレーザー光線を60分程度照射します。
胃がんなどの消化管のがんでは、内視鏡を通して照射することになるのです。
この治療で用いるレーザー光線は
100 ミリW以下の低出力の光線となり、低出力の光線であることから熱さを感じることはありません。赤外線、レーザーの赤色の光線も、可視光線で有害なものではなく、体に悪影響を及ぼす心配はほぼないようです。
実際のオペ手順
投与終了20〜28時間後に、専用の医療機器「BioBlade」でレーザー光を照射します。
「楽天メディカルジャパン」が製造販売
2020年9月、厚生労働省は光免疫療法で使う抗体薬「アキャルックス」を、世界で初めて条件付きで承認。
条件付きというのは、最終段階の臨床試験(治験)がまだ完了していない為、安全性の検証を条件としています。「切除不能な局所進行・局所再発の頭頸部がん」が条件付き早期承認制度となっています。
適用対象
適用対象となるのは、他に治療法がない頭頸部がんの再発患者です。主に外科手術では声帯などを摘出することもあるため、新たな治療方法のニーズが高かったようです。
治療は既にスタート
国立がん研究センター東病院(千葉県)で治療が始まっており、国内約20の大学病院などで受けられます。
抗体薬「アキャルックス」は、2021年1月に日本法人の楽天メディカルジャパンが販売を開始。新たな治療法により、同薬による治療を行えるのは一定の要件を満たした医師や医療機関に限られます。
アキャルックスによる治療を行える医師は、2021年8月24日時点で全国に97人おり、治療が可能な医療機関は、今秋までにに約40施設まで増える予定のようです。
世界初の頭頸部がんの光免疫療法に用いる抗体薬物複合・
アキャルックス点滴静注(一般名:セツキシマブ サロタロカンナトリウム(遺伝子組換え)、楽天メディカルジャパン)
組成
アキャルックス点滴静注250mg
有効成分1バイアル50mL中の分量
セツキシマブ サロタロカンナトリウム (遺伝子組換え)注2) 250 mg
添加剤1バイアル50mL中の分量
無水リン酸一水素ナトリウム 42.6 mg
1バイアル50mL中の分量
リン酸二水素ナトリウム一水和物 27.6 mg
1バイアル50mL中の分量
トレハロース水和物 4.5 g
1バイアル50mL中の分量
ポリソルベート80 10 mg
製剤の性状
アキャルックス点滴静注250mg
pH7.1±0.5
浸透圧比約1(生理食塩水に対する比)
外観緑〜青色の液である
緑色〜青色のタンパク質性粒子状物質をわずかに認めることがある
総称名アキャルックス
一般名セツキシマブ サロタロカンナトリウム(遺伝子組換え)
製剤名セツキシマブ サロタロカンナトリウム(遺伝子組換え)製剤
薬効分類名抗体 光感受性物質複合体
薬効分類番号4299
KEGG DRUG
D11805 セツキシマブサロタロカンナトリウム
商品一覧
アキャルックスによる治療をこれまでに3例
楽天メディカルによれば、アキャルックスによる治療をこれまでに3例実施。
この報告には国立がん研究センター東病院の林隆一副院長も出席され、手術後に再発した頭頸部がん患者に光免疫療法を施したことを発表。
左あごにあった5cmほどの腫瘍はほぼ壊死したものの、わずかに残存が認められたため、4週間後に2回目の治療を行った症例を紹介されています。
がんに対する免疫を活性化することでもがん細胞を攻撃
この光免疫療法のさらなる効果として、直接細胞を殺傷するだけでなく、患者自身のがんに対する免疫を活性化することでもがん細胞を攻撃するのです。
光免疫療法によりがん細胞を破壊し、がん細胞の中から、がんに特有の物質(がん抗原)が周囲にばら撒かれます。ですが、がん細胞の近くにいる免疫細胞はダメージを受けておらず、周りの免疫細胞が出てきたがん抗原を取込み、壊れたがん細胞と同じ細胞に対する免疫が活性化されるのです。
これらのがん細胞に対する免疫の活性化から、患者ご自身の免疫システムが、がん抗原を持っているがん細胞に対して攻撃を始め、光免疫療法では生き残ってしまったがん細胞もさらに攻撃することができるのです。
このがん細胞を退治することができる免疫細胞が、治療したがんの箇所から全身に循環することにより、離れた場所の転移がんに対しても治療効果を発揮することが期待されます。
さらにがん細胞に対する免疫を獲得、もしくは増強すると、感染症に対するワクチンの場合と同様に、同じがんが再発しないように予防する効果も望むことができるのです。